NHK「デジタル・タトゥー」第2話のIT技術・法律

NHK「デジタル・タトゥー」第2話のIT技術・法律

NHK土曜ドラマ「デジタル・タトゥー」に登場するIT技術や法的手続、調査手法などは、もちろん多少の脚色や描写の省略はありますが、現実に風評被害対策において使わせているものです。 原案を担当した弁護士として、第2話に登場する調査手法の解説を行います。

第2話のハイライトは、ユーザー登録型の掲示板に書き込みを行った匿名ユーザーの住所氏名を、YouTuberタイガが特定するシーンでしょう。このシーンを解説します。

ネットークションサイトのIDを用いた投稿者特定

「(宅配伝票を見て)分かったよ、大野さんが痴漢で有罪になったって情報、掲示板にあげた人」

「は?」

「芝崎ゆかり。主婦。住所は新潟県八海市八日町2の12の1」

(中略)

「なんでわかったんだ?」

「ネットオークションだよ」

「は?」

「大野さんへの誹謗中傷を書き込んだ人物のIDをネット検索にかけてみたら、同じIDで@オークションに出品してる人物がいたんだ。で、その商品を落札して、今届いたって訳」

NHK土曜ドラマ「デジタル・タトゥー」第2話

YouTuberのタイガは、会員制の掲示板サイトで、主人公の弁護士、岩井弁護士の依頼者である大野氏を執拗に攻撃するユーザーの正体を調べるため、そのユーザーのIDについて、ネット検索を行います。すると、オークションサイトで同じIDを用いているユーザーが存在し、そのユーザーが現に商品を出品していることを発見した。そこで、その商品を落札すると、当該ユーザーから、住所氏名を明かした状態で商品が届いた訳です。

その商品発送者=当該IDを用いているユーザーは、問題の掲示板に同じIDで誹謗中傷投稿を行った人物と同一人物である可能性が高いものといえます。さらにドラマ内では、商品発送者が被害者と同じ町に住んでいるという状況証拠もある。同一人物である可能性は、かなり高いものと言えるでしょう。

ヤフオク!の出品から運営者特定に至るケース

上記ドラマの投稿者特定方法は、「同じIDを異なるサイト間で使い回す」という人間の特性に依存するものです。実際問題として、ショッピングサイトと掲示板サイトなど、異なるサイトで同じIDを使い回している人は、意外と多いのではないでしょうか。もちろん、ユーザー登録時には「将来、このIDを使って誹謗中傷投稿を行う予定だ」などとは考えていない。だから無警戒に同じIDでアカウント登録を行う。そのようにして作成されたIDが将来的に誹謗中傷に用いられた場合、ドラマのような形で投稿者特定に至る可能性はあります。

さらに、Yahoo!のサービスに関しては、特に少し前まで、こうした調査による特定可能性が、テクニカルな意味でもありました。

Yahoo!の提供するサービス一覧

Yahoo!は、ブラウザメールサービス、既にサービスが終わった「ジオシティーズ」などのウェブサイト運営サービス、ブログサービス、知恵袋、オークションサービスの「ヤフオク!」など、様々なサービスを運営しており、一度アカウントを作成すれば、同一アカウントで様々なサービスを利用することができるサイトです。

そして、少し前までのYahoo!は、これらの様々なサービスの間で、統一されたIDを使う事がデファクトスタンダードでした。ただ、最近はサービスごとにIDを変えるよう、Yahoo!側が様々な形で推奨していることもあり、同じIDが複数サービスで使い回されている例は、あまり多くはありません。

このようにして、同じIDが複数サービス間で「使い回し」されていると、例えば

  • 匿名サイトに記載されていたメールアドレスがYahoo!のメールアドレスである
  • そのIDをヤフオクで探すと、ヤフオクユーザーとして活動している実態がある

といったケースも、実際にあったのです。

そうした場合には、匿名サイトの運営者を特定するために、いわゆる「発信者情報開示請求」など、法的手続を用いる必要もありません。単にヤフオクで商品を落札すれば、そのIDの所有者=匿名サイトの運営者から、住所や氏名を明かした状態で商品が送られてくる訳です。

小説「デジタル・タトゥー」における同種手法

この手法は、拙著「デジタル・タトゥー」にも登場します。

書籍「デジタル・タトゥー──インターネット誹謗中傷・風評被害事件ファイル」

Yahoo!は、誹謗中傷対策を手がける弁護士にとって、重要な特徴が二つほどあるサービスである。

まず、様々な、本当に多種多様なサービスを展開しているポータルサービスである、ということ。この「多種多様」の中には、例えばメールサービスや、ブログサービス「Yahoo!ブログ」、オークションサービス「ヤフオク!」も含まれる。

そしてもう一つの特徴は、ユーザーが意図的に設定を行わない限り、各サービスのユーザーIDが同一であるということだ。だから、例えば「あるYahoo!ブログで誹謗中傷が行われており、その運営者を知りたい」という場合、そのブログで用いられているユーザーID(これはブログのURL内に、「http://blogs.yahoo.co.jp/dmglace」といった形で含まれる)を「ヤフオク!」で探せば、「その運営者がオークションで出品している商品」などを発見できる可能性がある。その商品を落札すれば、「出品者と落札者」として、相手から住所や氏名を教わることができる。

今回の場合もYahoo!のメールアドレスの「@」以前、つまり「dmglace」を「ヤフオク!」で探したところ、IDが「dmglace」のユーザーを、「ヤフオク!」で見つけることができた。ただ、現在の出品は無し。数年前から定期的に、自動車パーツなどの出品を行っていたようだが、最後の出品は約1年前だった。
「この出品者を監視しよう。なぜここ1年出品が止まっているのか何とも言えないけど、今度出品されたら、その商品を落札すればいい」

(中略)

「先生、このブログをちゃんと見ましたか?」
「いや、Yahoo!のメールアドレスが書いてあったという以外、きちんと見てないけど」
「ですよね。このブログ、1年ちょっと前に気になる記事があるんです。…これです」
ブログ記事には、「オリジナルステッカーなど自動車グッズを作るのが趣味だったが、仕事で忙しくなったのでしばらく活動を休止する」といった内容が記載されていた。
はっと思い出し、ヤフオク!での「dmglace」の過去出品リストを見る。
「そうか、単に自動車グッズというだけじゃないんだ」
「そうです、これらは多分、全てこの人のオリジナル商品ですよ」

(中略)

「上手くいくか分かりませんが、私にやらせてくれませんか?このブログの読者で、この人が作ったカーグッズの購入者の友達、という設定でメールしてみます。ファンで自分も買おうと思っていたら販売が休止されてしまって悲しい、是非もう一度作ってヤフオク!に出して欲しい、と頼んでみます」
その発想はなかった。
「分かった、任せるよ」

書籍「デジタル・タトゥー」(本ブログ記事掲載用に表記を多少改訂)

弁護士は、時にこうした探偵のような手法も用いながら、匿名サイトの運営者との削除交渉を行っているのです。

「デジタルタトゥー」について詳しく解説したページはこちら

モノリス法律事務所

モノリス法律事務所は、NHKドラマ「デジタル・タトゥー」の原案を務める代表弁護士の下、企業・個人の風評被害対策を多数手がけております。

Phone: 03-6262-3245 (平日10時-17時)
Email: kawase@monolith-law.jp

モノリス法律事務所

モノリス法律事務所

モノリス法律事務所は、IT・インターネット・ビジネスに強みを持つ、東京・大手町の法律事務所です。

シェアする