逮捕歴・前科の記事削除はどの程度の期間が必要か

逮捕歴・前科の記事削除にはどれくらいの期間が必要とされるのか

あなたの個人情報、特にあなたの逮捕歴や前科がネット検索で出てきてしまい、周囲の人に知られてしまうと、就職や転職活動がうまくいかなかったり、勤務先で不利益をこうむったり、交際や結婚が難しくなったり、家族に迷惑がかかったり、賃貸物件が借りられなくなったりして、たいへん困ることになります。

逮捕歴や前科の記事削除と比較衡量

逮捕歴や前科情報はプライバシー情報なので、プライバシー権の一種である「更生を妨げられない利益」を主張して、削除を請求することになります。個人には誰にでもプライバシー権が保証されているからですが、一方、ニュース記事などの掲載は表現の自由にもとづく行為なので、どうしても両者のバランスが問題となります。

逮捕歴や前科情報の記事の削除は、「比較衡量」理論に基づいて判断されているのですが、その基準は、その人の社会的地位や影響力とともに、一般には、

  • 起訴されたかどうか
  • 犯罪が行われてからの期間
  • 更生への取り組みがされているかどうか
  • 削除の必要性があるか

にあり、これらから、総合的に判断されています。

つまり、「〇〇なので削除が認められる」というものではなく、個々の事情に応じて、基準を比較し、衡量して、判断されているのです。このような一般的な基準や判断枠組みに関しては、別記事で解説しています。

しかし、これでは、逮捕歴や前科がある人は「自分に関する記事は削除してもらえるのだろうか」と不安なままでしょうし、特に、「自分の場合には、どれくらいの期間が経過すれば削除が認められるのだろうか」という疑問を持つでしょう。

この、どれくらいの期間が経過すれば個人のプライバシー情報が「公共の利害に関する事項」といえなくなるのか、という「時間の経過」という要素は最も関心が高い要素です。そこで、いろいろな例をあげつつ、それぞれの場合において、上の基準がどう当てはめられているかを見ながら、どれくらいの期間が必要とされるのかを考えてみたいと思います。

Google検索で児童買春・児童ポルノ禁止法違反罪の削除が認められなかった例

犯罪報道の記事削除にはどのような判決が下るのでしょうか。

児童買春・児童ポルノ禁止法違反罪で罰金50万円の略式命令が確定した男性が、事件から3年以上を過ぎても、名前などを検索すると逮捕時の記事などが表示されているとして、Googleの検索結果から自身の逮捕に関する情報の削除を米Google社に求めた仮処分認可決定の保全抗告審で、東京高等裁判所は2016年7月、さいたま地方裁判所の投稿記事削除を命じた仮処分決定(いわゆる「忘れられる権利」判決)を取り消しました。

児童ポルノ事件の公訴時効期間は3年もしくは5年(刑事訴訟法第250条)であるので、男性側は、「本件では、公訴時効期間と同程度の時間が経過すれば、公衆の正当な関心は希薄化し、公共性がなくなる(すなわち、違法性阻却事由がなくなる)と考えられ、本件検索結果の表示は違法となる」と主張したのですが、東京高等裁判所は、

本件犯行は、児童買春行為という、子の健全な育成等の観点から、その防止及び取締りの徹底について社会的関心の高い行為であり、特に女子の児童を養育する親にとって重大な関心事であることは明らかである。このような本件犯行の性質からは、その発生から既に5年程度の期間が経過しているとしても、また、相手方が一市民であるとしても、罰金の納付を終えてから5年を経過せず刑の言渡しの効力が失われていないこと(刑法34条の2第1項)も考慮すると、本件犯行は、いまだ公共の利害に関する事項であるというべきである。

(東京高等裁判所2016年7月12日判決)

としました。ここで触れられている「刑法34条の2第1項」は、以下の通りです。

刑法第34条の2
1.禁錮以上の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで十年を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。罰金以下の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで五年を経過したときも、同様とする。

犯罪報道の削除請求に要する経過時間は、犯罪の軽重や社会的影響の大小によって変化すると考えるのが妥当であり、削除請求できるまでの期間は軽い罪であれば短く、重い罪であれば長くなると考えるのが合理的です。

犯罪の軽重や社会的影響の大小は罪名のみで決まるものではないのですから、実際の犯罪の行為態様、結果、刑罰によっても削除請求に要する経過時間は変化すると考えるべきです。

にもかかわらず、一律に刑法34条の2第1項を基準にしてしまうと、罰金刑は金額の多寡にかかわらず5年、実刑は期間の長短にかかわらず執行が終わってから10年経過しないと削除請求ができない結果となってしまいます。

これは、著しく不合理であると言ってよいでしょう。最高裁(ノンフィクション『逆転』判決)は、「その者が有罪判決を受けた後あるいは服役を終えた後においては、一市民として社会に復帰することが期待されるのであるから、その者は、前科等にかかわる事実の公表によって、新しく形成している社会生活の平穏を害されその更生を妨げられない利益を有するというべきである」と判示しており、長期間の追加的制裁を前提とはしていません。

この後、最高裁も抗告を棄却してさいたま地方裁判所の原決定を取り消したのですが、発生からの期間というより、児童買春行為という罪名が判断を決定したのだと言われ、「わいせつ系の事案なら晒しておいた方がいいという価値観なのか」という声があがりました。

もしそうであるなら、最高裁自身が比較衡量という原則に背いていることになりますが、判決文を注意して読んでみると、「本件検索結果は抗告⼈の居住する県の名称及び抗告⼈の⽒名を条件とした場合の検索結果の⼀部であることなどからすると、本件事実が伝達される範囲はある程度限られたものであるといえる」とあります。

つまり、「名前と県名で検索すると本人の逮捕に関する情報が見つかるだけなので、伝達される範囲が狭いから」という判断と理解できるのです。そう考えれば、これまでの判例と矛盾してはいません。

「不特定多数の一般人がその者を当該事件の本人であると推知することができるかどうかを基準にして判断すべき」(最高裁2003年3月14日判決)とされているからです。

であるなら、もし名前だけで検索して情報が見つかる場合には、つまり伝達される範囲が限られたものでないなら、どういう判断がなされるのでしょうか。また、発生から10年以上である場合にはどういう判断となるのでしょうか。

Google検索で歯科医師法違反罪の削除が認められなかった例

横浜市で診療所を開設している歯科医師の男性が、自分の名前をネットで検索すると過去に歯科医師法違反の疑いで逮捕され、罰金50万円の略式命令を受けた事実が表示されるとして、Googleを運営する米Google社に、検索結果の削除を求めました。

この歯科医は歯科医の資格を持たない者に診察をさせたとして逮捕され、罰金50万円の略式命令を受けたのですが、逮捕の事実が新聞で報じられ、インターネットを通じて拡散しました。この結果患者が減ったり、求人に応募がなかったりする被害が10年以上たっても生じているとして削除を求め提訴したのですが、1審判決は「被害の程度は重くない」などとして、削除を認めませんでした。

この訴訟の控訴審判決で、東京高裁は請求を棄却した横浜地裁判決を支持し、「今なお歯科医師としての資質に関わる事実として、公共の利害に関するものだ」と判示して、男性の控訴を棄却しました。 他の事例を見ても、資格に関係するような犯罪の前科や逮捕歴、言い換えれば資格を悪用したような犯罪に対しては、判断が厳しくなっています。これは「社会的地位や影響力」を考えた結果であり、「一市民として社会に復帰する」(最高裁:ノンフィクション『逆転』判決)場合とは異なる要求がなされるからでしょう。

削除が認められた例

すでに書いてきたように、犯罪報道の削除に要する時間経過についての明文規定はありません。もっぱら人格権に基づく差し止め請求権の解釈に委ねられています。その際、ネット上の記事削除は仮処分手続きによるのが一般的ですが、仮処分手続きは非公開なのです。

だから、時間経過という基準は、非公開手続きの中だけで判例が蓄積されており、犯罪報道の削除請求は申し立てが多い分野であるのに、弁護士間で情報の共有があまりできません。研究会等の中で、それぞれの経験を突き合わせることができるだけです。また、判例は原則として公開されないため、客観的考察や分析ができないのです。

プライバシーの問題となるので、あまり具体的な詳しい紹介はできないのですが、「職業」「罪名」「処分」「およその期間」を期し、削除が認められた例を、いくつかあげておきます。

 

職業 罪名 処分 およその期
会社員 窃盗 罰金 判決から約5年
医者 児童ポルノ法違反 不起訴 事件から4年3か月
会社役員 薬事法違反 懲役2年執行猶予4年 判決から約4年
公認会計士 公認会計士法違反 業務停止6か月 処分から9年2か月
自営業 盗撮 罰金 処分から2年10か月

削除が認められた例は、多くあるのですが、列挙してもあまり意味がないかもしれません。いろいろな要素を比較衡量した結果なのであり、すべての要素が全く同じケースはないからです。

また、上の場合、例えば業務停止6か月であった公認会計士の方の場合にしても、処分から5年でも記事削除が認められたかもしれません。同時に、盗撮で罰金刑を受けた自営業の方の場合、他の要素次第では5年でも削除を認められなかったかもしれないのです。

むしろ、「削除が認められなかった例」を詳しく検討し、例えば「更生への取り組みがこのようになされている」と強調したり、「削除の必要性」について詳しく丁寧に述べる、といったような、経験に基づく有効な手立てを個別状況に応じて弁護士が考えて対応できるかどうかが、結果を左右すると言えます。

逮捕歴や前科の記事削除というのは、非常に専門性の高い領域であり、この分野での経験が豊富な弁護士に依頼すべきなのです。

モノリス法律事務所

モノリス法律事務所は、NHKドラマ「デジタル・タトゥー」の原案を務める代表弁護士の下、企業・個人の風評被害対策を多数手がけております。

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