弁護士法人 モノリス法律事務所03-6262-3248平日10:00-18:00(年末年始を除く)

法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

プライバシー権を徹底解説。3つの侵害要件とは

風評被害対策

プライバシーの侵害が認められるための条件とは

自分の住所や電話番号、病歴や前科など、自身のパーソナルな情報がさらされていたら…?

昨今、SNSの発達などで、最も大切な情報が他人によって公開されてしまうケースが増えています。

こうした悪質なプライバシーの侵害に対して、どのような対処が可能なのでしょうか。判例を交えて解説していきましょう。

プライバシーの侵害とは

これまで第三者に公開されてなかった私生活における情報が公開され、被害者が不快に感じた場合、例えその情報が事実であったとしてもプライバシーの侵害となります。

プライバシーの侵害は、刑法上罰する規定は設けられていませんが、民事上の責任が発生します。

判例で認められているプライバシーの侵害の典型例

現在までに判例で認められているプライバシーの侵害の典型例には、以下のものがあります。

  1. 前科・前歴
  2. 出自
  3. 病気・病歴
  4. 指紋
  5. 身体的特徴
  6. 日常生活・行動
  7. 氏名・住所・電話番号
  8. 家庭内の私事

上記は、インターネット上での誹謗中傷行為に関しても基本的に同様です。

しばしば「プライバシーの侵害だ」と耳にしますが、実は刑法では「プライバシーの侵害」の条文は存在しません。その代わり、民法上の不法行為として損害賠償金の請求が可能です。

では明文化された条文がないプライバシー権はどのような変遷をたどって認められるようになったのでしょうか。判例とともに解説していきましょう。

プライバシー権は判例において認められるようになった

プライバシー権は、社会が発展するにつれ、判例において「権利」として認められるようになってきました。そのきっかけとなった有名な判例が『宴のあと』事件です。この事件ではプライバシー侵害の3つの要件が明確に示されました。

(イ)私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのあることがらであること
(ロ)一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立つた場合公開を欲しないであろうと認められることがらであること、換言すれば一般人の感覚を基準として公開されることによつて心理的な負担、不安を覚えるであろうと認められることがらであること
(ハ)一般の人々に未だ知られていないことがらであること

判例の内容を見ていきましょう。

『宴のあと』事件とプライバシー権

「プライバシー権」の発端は三島由紀夫が、昭和35年に発刊した『宴のあと』という小説です。

この小説は、外交官を経て外務大臣をつとめ、2回にわたって東京都知事選に立候補した有田八郎氏をモデルにしたものです。主人公・野口雄賢のモデルとされた有田氏は、小説の内容によって精神的苦痛を受けたとして、三島及び新潮社に100万円の損害賠償と謝罪広告の掲載を求めました。有田氏は、「『宴のあと』は原告の私生活をほしいままにのぞき見し、これを公表したものでありこれによって原告は平安な余生を送ろうと一途に念じていた一身上に堪えがたい精神的苦痛を感じた」と、主張しました。

この訴えについて、東京地方裁判所は昭和39年9月28日、三島と新潮社が連帯して、有田氏に80万円を支払うよう命じ(謝罪広告の掲載は認めませんでした)、判決文中で「いわゆるプライバシー権は私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利として理解される」と明示しました。プライバシー権を認めた初めての裁判例とされています。

記載内容の真否は問題ではない

ここで着目すべき点は、プライバシーの侵害の場合、上記の要件で問われているのは、あくまで「それがどういう事柄か」という、いわば「テーマ」の問題であり、その記載の真否は問題とされていない、ということです。例えば、ある個人について、前科前歴、出自などが記載された場合、問題なのは、そうした「テーマ」が要件を満たすか否かであり、記載された前科や出自が正しいか否かは、「プライバシーの侵害の有無」との関係では、問題とされません。

文学における表現の自由は絶対ではない

一方で憲法では表現の自由も認めています。表現の自由とプライバシー権との比較について、「プライバシーの保護がさきに指摘したような要件の下に認められるものとすれば、他人の私生活を公開することに法律上正当とみとめられる理由があれば違法性を欠き結局不法行為は成立しないものと解すべきことは勿論である。」とした上で、文学における表現の自由は絶対ではないとしています。

次に紹介する判例も小説のモデルになった人物のプライバシー権についての判例です。論点となったのは「個人の容貌がプライバシーに属するかどうか」です。

『石に泳ぐ魚』事件とプライバシー権

『石に泳ぐ魚』は、雑誌『新潮』の1994(平成6)年9月号に掲載された小説で、柳美里のデビュー作です。柳の知人の在日韓国人で、顔に大きな腫瘍がある女性がモデルとなっています。

発表前にも後にも、柳が彼女をモデルとして小説を書いているとの話は全くなかったので、友人から知らせを受けて当該書を買い求めたモデルとなった女性は、大きなショックを受け、プライバシーの侵害として著者に抗議をしましたが、聞き入れられませんでした。そこで、出版差止めの仮処分申請を行いました。

柳は「原告は著名人ではないから、読者が作中人物の朴里花を原告と同定することはないし、純文学であるから虚構性は高い。また容貌については、プライバシーは成立しない」と主張して、争うこととなりました。

一審の東京地裁は、著者の柳美里、新潮社および編集長に対して連帯して100万円の損害賠償を命じ、別個に柳美里には30万円を支払うことを命じました。

判決では、次のように判示されています

原告の属性を知る読者が不特定多数存在するから原告と作中人物を同定することは可能である。また描写に相当の変容を施すなどの配慮が行なわれていない。現在の事実と虚構事実が渾然一体となって表現されており、読者はこれらの虚実を容易に判別することが出来ない。したがって虚構を事実と誤解する危険度が高いので、原告のプライバシー及び名誉感情を侵害する。

東京地判平成11年6月22日

柳は控訴しましたが、東京高裁は平成13年2月15日に控訴を棄却し、「腫瘍がある事実を広く公表するのは人格権の侵害である」との判断を示し、やはり差止めを認めました。

柳はさらに最高裁に上告しましたが、平成14年年9月24日、最高裁は口頭弁論を開かないまま、「公共の利益にかかわらない女性のプライバシーを小説で公表することによって、公的立場にない女性の名誉、プライバシー、名誉感情を侵害した」と認定し、「出版されれば、女性に回復困難な損害を与えるおそれがある」として、上告棄却の判決を下しました。

小説等の主人公や登場人物に別の名前が与えられていても、モデルが現実の人間と同定可能とされ、名誉毀損等が成立するケースについて別記事にて説明しています。

個人の容貌はプライバシーに属するか?

この裁判の論点のひとつは、個人の容貌がプライバシーに属するかどうかでした。柳は、「容貌については、プライバシーは成立しない」と主張したのですが、第一審判決では「原告と面識がなく腫瘍があることも知らないものでも、原告という特定の人物が存在すること自体は知っている者が本小説の読者となる可能性も否定することはできず、腫瘍の事実を開示することは原告のプライバシーを侵害する」としています。

控訴審の判決でも「個人の障害や病気の事実は、個人に関する情報のうちでも最も他人に知られたくない類のものである。特に外貌に関わる障害の事実は、その障害が本件のような類症例が少ないものである場合、その人物の他の属性と合わせて公表されれば、それ自体が周囲の好奇の対象になる」としてプライバシーの侵害にあたるとし、「顔面に腫瘍の障害を負った者に対する配慮に欠ける」としました。

裁判で認められているプライバシーの侵害の範囲

『宴のあと』事件や『石に泳ぐ魚』事件やその後の裁判で得られた判例を蓄積し、少しずつ、プライバシーの侵害の範囲が決められつつあります。ノンフィクション『逆転』事件では、「前科等にかかわる事実」について争われました。判決では下記のように明示されました。

その者が有罪判決を受けた後あるいは服役を終えた後においては、一市民として社会に復帰することが期待されるのであるから、その者は、前科等にかかわる事実の公表によって、新しく形成している社会生活の平穏を害されその更生を妨げられない利益を有する。

最判平成6年2月8日

なお、この判決では、「前科等にかかわる事実を公表されない法的利益」と「前科等にかかわる事実につき、実名を使用して著作物で公表する必要性」を比較して、前者が優越する場合のみ、損害賠償を求めることができるとして、例外的に前科等の事実の公表が許される場合があることを認めています。

また、平成7年12月15日、最高裁は「指紋は、指先の紋様であり、それ自体では個人の私生活や人格、思想、信条、良心等個人の内心に関する情報となるものではないが、性質上万人不同性、終生不変性をもつので、採取された指紋の利用方法次第では個人の私生活あるいはプライバシーが侵害される危険性がある」とし、「憲法一三条は、国民の私生活上の自由が国家権力の行使に対して保護されるべきことを規定していると解されるので、個人の私生活上の自由の一つとして、何人もみだりに指紋の押なつを強制されない自由を有する」としています。

プライバシーという考え方は社会の変化に応じて生まれ、判例において認められてきたのですから、社会の情報化が進めば、さらにプライバシーの考え方も変化し、発展していくでしょう。

弁護士に依頼するメリット

依頼者自身でも法律問題を解決することはできますが、法律の素人である依頼者が行える法的な手続きには限界があり、交渉が上手くいかなくなる可能性が高くなってしまいます。

弁護士は豊富な法律知識による適切な法的手続きにより、交渉を有利に進めることが出来ます。また、依頼者の代理人であるため、相手方と代理で接触し、依頼者は接触せずに済みます。さらに、複雑な法律資料の手続き、交渉から裁判まで全て弁護士が行ってくれます。弁護士は依頼者の味方です。問題が発生したら自分自身で解決せず一度弁護士に相談してみましょう。

まとめ

ここまで解説してきたように、プライバシーの侵害は、法律上に明確な根拠条文がなく、裁判の蓄積によって、3個の要件が必要であるとされているなど、なかなか法律的に複雑な問題です。法律の専門家ではない依頼者が行える法的手続には限界があり、交渉が難航する可能性が高いです。

弁護士への依頼を行えば、豊富な法律知識による適切な法的手続きにより、交渉を有利に進めることが出来るケースも多いと言えるでしょう。

また、プライバシー侵害に該当するような情報を掲載している相手方と直接接触するのは依頼者ではなく弁護士となるため、依頼者自身が接触を行う必要はなくなりますし、複雑な法律資料の手続きも弁護士が代行します。

ネット上でのプライバシー侵害に悩んでいる場合、風評被害対策の経験が豊富な弁護士に一度相談してみましょう。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

シェアする:

TOPへ戻る